コーヒーを飲みながら環境を語る(3) No.3 ライン河環境汚染事故 (サンドス事件) 理事 青木正光
スイスのバーゼル市内の中を、スイスを源流とするライン河が流れています。ライン河は、スイス、リヒテンシュタイン、オーストリア、フランス、ドイツなどを経由してオランダのロッテルダムまで流れる全長 1.320kmにおよぶ大河です。バーゼルまでは、大型タンカーや貨物船の運行が可能で、バーゼルはライン河最上流の港にもなり、中部ヨーロッパの物流の大動脈となっています。山岳で有名なスイスで、バーゼル市内を流れるライン河に大型タンカーや貨物船が航行しているのを見た時は、「こんな山奥にタンカーが・・・」と唖然としました。
写真1 ライン河を航行するタンカー
バーゼルから河口のオランダのロッテルダム港までは884kmの距離にあり、バーゼル市のほぼ真ん中を流れるライン河の川幅は200mもあります。訪問したのが、寒い12月でしたが、多くの人がミッテレール橋からライン河を見ているので何だろうと思っていたら寒中水泳をライン河で行なっていました。結構、流れは急でした。学校で、ヨーロッパの大動脈の一つとして「ライン河」があると教えられましたが、スイスのバーゼルに来て現場を見て、初めて、その重みを理解することができました。また、バーゼルには、スイス第二の都市で、時計と宝石の見本市でも有名で、電子材料、染料、製薬などを製造する化学品工場が集結している場所でもあります。ドイツに入るとヘキスト、BASF、バイエルンなどの大手化学会社がライン河沿いに位置します。1979年にライン河を化学物質で汚染されないように”ライン河化学防止条約”が締結されていました。この6カ国を流れるライン河で、実は環境事故が1986年11月1日に発生しました。スイスのバーゼル郊外にある化学会社「サンドス」の956倉庫(1,351トンの化学物質を貯蔵)の火災事故が原因で、化学物質が炎上・爆発し、消化水とともに倉庫から流出した有機水銀化合物や殺菌剤等の有害物質により、ライン河が汚染された事件で、「サンドス事件」と言われるものです。30種類の農薬を貯蔵した工場の火災が原因で、30トン近くの有害物質がライン河に流入し、ウナギなどの50万匹の魚類が大量に死滅したほか、飲料水、農業用水やビール工場の取水も一時停止されるなどの事態となりました。ドイツのコブレンツまで大量の魚が死に至らしめたといいます。火災から11日後には、オランダの河口に達し、北海を汚染しました。この汚染事故でライン河は「ヨーロッパの下水」とも言われました。この事件は、ドイツ、スイス、オランダなどのライン川の下流の沿岸国まで拡散し、深刻な被害を与えた事件で、国境を越えた大規模な環境汚染を引き起こしました。化学物質の汚染からライン河の水質を守るために「国際ライン河保護委員会」が創設され、排水規制の強化へと進展しました。被害規模が大きかったことに加え、環境対策には熱心と考えられていたスイスで発生したことから沿岸国だけでなく、欧米諸国に大きな衝撃を与えました。また、化学工場など有害物質を扱う工場の事故についての国際的な取り組みの必要性が強く認識されることになり、工場の事故に関する経済協力開発機構(OECD)の勧告・決定を制定する契機 にもなり、さらにバーゼル条約を制定するアイディアにつながったものでした。
さて、実は、このライン河について、楽しい思い出があります。筆者は、ドイツに住んでいる時に「なにか記念となるものを残したい・・・」という気持ちが湧き上がり、環境調和型製品のマーケティング活動しているビジネスを成功させせる願いもあって、「ライン河歩き」を思い立ちました。住んでいる家近くからライン河までは徒歩、10分で行け、休日には、ライン河の土手を、散策を兼ねて歩いていました。看板をみると「750」の数字がありました。これは、ライン河のドイツの源流であるボーデン湖までの距離であることを暫らくして知ることになりました。ドイツでは、ライン河に対岸からでも見える大変大きな標識看板が1kmごとに立てられています。小さい標識では、100mごとに整備されています。道も「乗馬用の道」、「サイクリング用の道」、「歩行者用の道」の3つが整備されている場所もあります。この数字の「750」に魅せられて、ドイツ駐在中に歩こうとの気持ちに駆られ、毎月、積立方式でライン河のドイツの源流までの750kmを歩くのを計画しました。
写真2 ライン河歩き (ボーデン湖から609kmの距離/逆さまから読んでも同じ)
実は、学生時代にワンダーフォーゲル部に所属し、九州徒歩縦断 (約600km)と四国徒歩横断 (約450km)を実施した経験がありましたので、ワンダーフォーゲル発祥のドイツでウォーキングを試してみたかったのもありました。
帰任するまでの間、毎月、積立方式で歩き、450km分を歩き、フランスの国境まで達しました。ボーデン湖から555kmの距離にあるローレライを通過する時には、総勢11名の参加者となりました。
写真3 ボーデン湖から555kmに位置するローレライからライン河を望む
歩いて分かったことは、ライン河は、物流の大動脈のみならず飲料水としても重要な役割をしていることでした。ライン河の果たす役割は重要なものと言えます。そういう意味では、ライン河をいつも綺麗に保っておくことが重要と言えます。ライン河を汚染した環境事故は、大きな教訓を残す形となりました。
解説 ライン河化学汚染防止条約 1976年に作成されたライン河化学汚染防止条約は、ドイツ連邦共和国政府、フランス共和国政府、ルクセンブルク大公国政府、オランダ王国政府、スイス連邦政府およびヨーロッパ経済共同体(当時)が締約国で、ライン河の化学汚染が同河川の動植物相に対して脅威を与え、また海水に対して望ましくない影響をもたらす事情に鑑み、有害な物質の排出を段階的に削減することにより除去したり、規制したりすることを狙いとして1979年発効された条約です。 |
参考資料
INDUST 2008年7月号
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