写真:(左よりメディカル事業本部ヘルスケア事業本部 部長 中摩貴浩氏、UV応用機器グループ 小永吉英典氏)
筆者は今から2年前にENEX2020の会場で、日機装株式会社(当時、日機装技研株式会社)の深紫外線の光源をLEDに変え水の除菌をする技術を知った。(コロナ禍の前である。)その後、新型コロナウィルスが蔓延し取材も延び延びになってしまったが、深紫外線LED技術は進展し深紫外線LEDを用いて新型コロナウィルスを抑制する画期的な製品が実用化されて現在に至っている。今回は、深紫外線LEDの開発と製品について日機装株式会社を訪問しお話を伺った。対応していただいたのはメディカル事業本部ヘルスケア事業本部 部長 中摩貴浩氏、同 UV応用機器グループ 小永吉英典氏、企画本部 経営企画部 広報・IRグループ 西村愛氏 である。
1.深紫外線LEDの開発について
深紫外線とは280ナノメートル以下の短い波長の光のことをいい、高い除菌能力を持ち、この光を照射することでウィルスや細菌の増殖を抑えることができます。これまでの主な光源は水銀ランプで医療機器、工場や研究機関、食品分野等での除菌や検査などで利用されてきました。弊社の深紫外線LEDの開発はノーベル物理学賞受賞者のご指導のもと、2006年から研究を重ね、2015年に世界で初めて50mWの光出力と10,000時間以上の寿命を持つ深紫外線LEDの製品化に成功しました。光源が水銀ランプからLEDに変わる事で今後、用途に合わせた波長の選択ができ、製品の小型化、長寿命化、環境に優しい製品作りが可能になったのです。この成功を基に今後血液透析事業を含めいろいろな分野に用途広げていこうと考えています。
* 深紫外線の光源には従来水銀ランプが使われてきましたが水銀の人体への影響や環境への有害性から国際的に取り扱いが制限されることになっています。(水銀に関する水俣条約)
2深紫外線LEDと新型コロナウィルスについて
1)深紫外線LEDを使った空間除菌消臭技術の開発について
先に深紫外線LEDの製品化に成功したのは水除菌で流水除菌モジュールや水除菌装置でした。水は流路が決まっていればそこに照射すれば除菌が可能ですが、空気を除菌する製品の開発は多くの課題がありました。
●空気は空間全体に広がるので水のようにタ-ゲットを決めて照射することは困難です。空気中に散乱する菌に深紫外線を当てて除菌するには捕捉しなければなりません。 ●紫外線は人体に直接当たると目や肌を痛めるので光が漏れないように作らないといけません。 ●紫外線は材料を劣化させるので材料を選定しなければいけません。 ●装置は大規模化、高コスト化を抑え実用化しなければなりません。
上記の課題をクリアした製品が完成したのが2020年1月でした。画像にあるようにこの製品の特長は金属光触媒フィルターで空気中の菌を捕捉し深紫外線を照射して空気除菌して循環させるシステム(パッシブ型)にあります。
画像:(日機装社パンフレットより)
2)深紫外線照射による新型コロナウィルスの不活化について
2020年7月31日、弊社と共同研究をしている宮崎大学の研究論文が英国科学誌「Emerging Microbes & Infections」に掲載されました。その内容は弊社の深紫外線LEDの照射による新型コロナウィルス*1の不活化試験について、30秒、60秒の照射により新型コロナウィルスを99.9%減少させる結果に加え、10秒で99.9%、1秒で87.4%の減少を確認したことが報告されています。(*1は、SARS-CoV-2/Hu/DP/Kng/19-027、LC528233 神奈川衛生研究所より分与)
また、2021年6月15日当社と宮崎大学医学部の共同研究講座である「医療環境イノベーション講座 Collaboration Labo. M&N」において実施された"深紫外線LEDによる新型コロナウィルス変異株の不活化に関する研究論文"が、国際学術雑誌「Pathogens」に掲載されました。論文では、当社の深紫外線LED(日機装社製「SumiRay」)を新型コロナウィルス変異株[英国由来株(hCoV-19/Japan/QHN001/2020)*2、南アフリカ由来株(hCoV-19/Japan/TY8-612/2021)*3、ブラジル由来株(hCoV-19/Japan/TY7-501/2020)*4]に照射した結果、全株において1 秒照射で90%以上、5 秒照射で 99%以上ウィルスが不活化された、と報告されています。 (*2,3,4は、国立感染症研究所より分与)
感染拡大やワクチン耐性等懸念される新型コロナウィルス変異株に対しても従来株と同様に深紫外線LED照射が不活化に有効であったという今回の研究結果は、今後の感染対策に有益なデータであり、深紫外線LEDを搭載したデバイスの開発は、接触感染や空気感染の軽減に貢献できると期待されます。
VeroE6/TMPRSS2細胞における細胞変性効果3種類のSARS-CoV-2変異体(英国、南アフリカ、ブラジル由来株)のウィルス溶液を0、1、または5sの連続的なDUV-LED照射で処理し、10倍希釈し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種した。代表結果を示す。ウィルス感染による誘導された細胞変性効果(a)は、1s(b)または5s(c)の3.75または18.75 mJ/cm2に相当する照射により減少した。(d) 非感染細胞
VeroE6/TMPRSS2細胞におけるプラーク形成3種類のSARS-CoV-2変異体(英国、南アフリカ、ブラジル由来株)のウィルス溶液を0、1、または5sの連続的なDUV-LED照射で処理し、100倍希釈し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種した。代表結果を示す。ウィルス感染により誘導されたプラーク(a)は、1s(b)または5s(c)の3.75または18.75 mJ/cm2に相当する照射により減少した。(d) 非感染細胞
画像:(NIKKSO ニュ-ス 2021年6月22日 より)
3.日機装株式会社について
1953年の創業以来、インダストリアル事業(産業用特殊ポンプやそのシステム製品)、精密機器事業(電子部品製造装置等)、航空宇宙事業(CFRP製航空部品)、メディカル事業(血液透析やヘルスケア製品の医療部門機器)を核に様々な産業分野で活躍する製品を提供しています。
画像:(日機装グル-プのビジネスフィ-ルド 日機装株式会社 メディカル事業本部ヘルスケア事業推進部 UV応用機器グル-プ 資料より)
4.ヒアリングを終えて
今回、話を伺いながら驚いたのは、日機装株式会社は、コロナ禍の前に深紫外線LEDの水除菌に関する製品開発が完了しており、コロナ禍中においてウィルスに対応できる深紫外線LEDの空間除菌に関する製品を完成させたところである。(臨機応変な技術開発力の高さである。)この深紫外線LED技術は日常生活に入り込み、新型コロナウィルスを鎮静化するための有効なTechniqueではないだろうか
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